
近年、AI技術は急速に進化しており、その中心に位置するのがOpenAIのChatGPTやGoogleのBerdといったモデルです。これらのAIはweb上の大量のテキストデータを学習することで、人間のような会話をすることが可能となりました。
そして現在、様々なビジネスプロセスにAIが活用されています。特にカスタマーサポートやFAQの自動応答などのコミュニケーションに関連する部分ではいち早く普及が進められており、急速に人からAIへの代替が進んでいます。 その中でも本記事ではLINEを使ったチャットボットシステムにフォーカスを当て、その構築についてご説明します。
なぜLINEなのか
チャットボット導入先の選択肢はどのようなものがあるでしょうか?一度AIモデルを構築すれば、Web, iOS, Android等のネイティブアプリと、どのようなチャネルにも適応することができます。当社としては多くの場合、まず”LINE”への導入をオススメしています。理由は下記の通りです。

(LINE株式会社)
LINEの普及率
日本におけるモバイルユーザーの大半がLINEを利用しており、月間アクティブユーザーは9,500万人を超えると言われています。このような高い普及率は、企業がチャットボットを導入する際の大きな魅力となります。特に新しいサービスや製品を開発する際、既に多くのユーザーが利用しているプラットフォーム上でのアプローチは、リーチの拡大や認知の向上に繋がります。

慣れ親しんだUI
シンプルで直感的なUIを持つLINEは、日本では多くの人に慣れ親しまれています。これは独自のwebアプリやiOS, Androidアプリと比較し非常に大きな利点です。通常、新しいシステムの導入後にはユーザーに使い方を覚えて頂く必要がありますが、LINEの場合、例え年配の方でも抵抗なくオンボーディングが行えるでしょう。
※余談ですが、「問い合わせ対応の為に導入したシステムの使い方がわからず、逆に問い合わせが増えてしまった」という冗談のような事例もあります。。。

(メディー株式会社)
AIの利用シーンについて
ではLINEでのチャットボットはどのようなことを実現できるのでしょうか。語弊を恐れずに言うと、現時点でのAIは「なんでも行えるスーパーロボット」ではありません。まずはモデルが得意とすること、苦手なことを理解することが重要です。
AIの得意なこと
リアルタイム応答:人間と比較し、ユーザーの質問やリクエストへ即座に反応し、瞬時に応答を返すことができます。これにより、ユーザーの待機時間を大幅に短縮することができます。 人の応答の場合、電話では折り返しとなったり、チャットでは入力時間を待つことがありますが、AIの場合ほとんどそれがありません。
安定性のある対応:またAIは疲労や、感情などの対応のバラツキがなく、一貫したコミュニケーションを提供することができます。これはクレーム対応などに非常に効果的で、人材が精神的に疲弊してしまうことを避けることにつながります。一方でユーザー側もいつでも安定したサービスを受けることができます。
スケーラビリティ:処理能力においても、当然、人間以上のキャパシティを有しております。ただしここは完全に人と対立するかといえばそうではなく、人の入力の補助として下書きの提供などにも用いられ、そうした意味でもスケーラビリティを兼ね備えています。

AIの苦手なこと
学習データにないものの回答:生成AIは正確でない情報や意図しない答えを生成する可能性があります。これはモデルが過去の学習データに基づいて回答を生成するためであり、常に正確性を確保することが難しいという側面があります。(ハルシネーションリスク)
したがって現時点では医療や法律などの専門的な知識や高度な判断が必要とされる分野では、生成AI単体で用いるべきでないとされています。また独自の商品解説などをさせる際には、当然、別途商品情報などのデータが必要になります。

ユースケース
上記の点を踏まえ、LINEでのチャットボットはどのような利用シーンが考えられるでしょうか。実例をあげて説明します。
問い合わせ対応
24時間365日、ユーザーの質問や問題に対応することが可能です。特によくある質問や基本的なトラブルシューティングにおいて、迅速かつ正確に対応することができます。
渋谷区では区独自のLINE公式アカウントを開設し、区民の問い合わせにAIが答えています。また住民票や納税証明などの行政書類もLINE上で取得することができ、区民の利便性向上に一役買っています。
ここ最近では渋谷区のように、さまざまな自治体が導入を検討しており、弊社にも問い合わせが増えてきました。

学習アプリ
言語モデルの得意分野として、英語教育などの語学学習のサポートが挙げられます。翻訳での利用は比較的ハルシネーションのリスクも低く、問題と解説をAIが作成してくれるため、コンテンツ制作のハードルが格段に下がりました。
ユアスタAI英単語ではLINE上で簡単に自身のレベルに合わせた英語学習が行えます。

キャラクターAI
もし独自のキャラクターなどの資産がある場合、大きな収益化機会となるかもしれません。
下記はrinna社の「りんな」というAIで、LINEの登録者数は執筆時点で880万人を超えています。 LINE公式アカウントの機能の一つであるメンバーシップにより、有料会員限定でりんなからのLINEチャットや、限定音声配信などのサブスクリプションサービスを提供しています。

開発を成功させるためのポイント
チャットボットの開発は単に技術的な実装だけではなく、その背後にあるビジネス・ユーザーニーズを捉えることが重要です。最も簡単なのは現時点で顕在化しているニーズへの対応をAIに担わせることです(問い合わせ対応など)。
また利用シーンに合わせてチャットボットをカスタマイズすることも重要です。例えば、製品のFAQに答えるチャットボットとレストランの予約を受け付けるチャットボットでは、必要とされる機能や対話の流れが異なります。

カスタマイズの基本
モデルを自社独自の事業に合わせて調整するには、one shot, few shot learning等を用いたprompt engineeringや、fine tuningと呼ばれる手法があります。いずれもキーとなるのはクライアント自身でご用意頂く”データ”です。
データの重要性
チャットボットの性能は、使用するAIモデルの質と、そのモデルをカスタマイズするためのデータに大きく依存します。特に、特定の業界やサービスに特化したチャットボットを開発する場合、その分野に関連するデータが不可欠であり、こればかりはどうしてもクライアント自身で用意しなければなりません。(もちろんデータクレンジングのお手伝いはできます)
語弊を恐れずに言えば、適切なデータが用意できなければユーザーに間違った案内をするチャットボットとして、導入しない方が良いとも言えます。 例として製品の問い合わせ対応を行うチャットボットでは、製品の仕様や、よくあるFAQを事前に用意する必要があります。このようなデータを利用することではじめて、高い応答精度を実現することができます。
費用
初期投資
初期投資にはシステム設計や実装、モデルのカスタマイズのコストなどが発生します。特に重要なのはカスタマイズであり、それにより開発コストは大きく変動します。単にLINEとOpenAI APIを連携させ、素のモデルのAI チャットボットを構築する場合は20-30万円もあればできるでしょう。しかしながらビジネスの成功に寄与するのは、先述の通り、独自のデータを利用した開発が肝となってきます。その実現には一定の予算が必要となるかと思います。

ランニングコスト
ランニングコストでマストな部分はAmazon Web Serviceなどのサーバー代、LINE API、OpenAI APIの利用料です(OpenAIのモデルを使用した場合)。これらの料金は使用回数や時間、トークン量に応じて変動しますが、リリース初期で爆発的にユーザーが増えない限りは、大く見積もっても月間で数万円以内には収まるでしょう。問い合わせ対応を行う人件費などに比較すると、非常に費用対効果が高いと思います。
また別途継続した開発費用をしっかりと予算化することが非常に重要です。ソフトウェア等に限らず、市場に出した製品は制作サイドの予想を超えた使用をされることが常です。例えば製品の問い合わせ対応を行うLINE チャットボットを構築したが、用意したFAQ以外のことを聞かれることなどは容易に考えられます。またはユーザーが問い合わせを行わず、コミュニケーション自体を楽しんでいる・アカウントのファンとなったなどのケースもあるかもしれません。重要なことはリリース後もしっかりと継続して開発を行うことがプロジェクト成功のポイントとなります。
さいごに
弊社はソフトウェア開発企業ですが、得意とすることはお客様のビジネス理解とその成長のお手伝いです。時には身入りが少なくなれど、またご要望あれど「これは必要のない機能です」とハッキリと申し上げます。ソフトウェアは手段であって目的ではありません。ご相談などあればお気軽にお問い合わせください。いつでもお待ちしております。